アマチュア無線によるクルージングボートサポートシステムについて
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2010 AUG. JH2UZB/1/M |
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国内周航や太平洋方面などを航行するセーリングボートなどにとって極めて有効と思われるアマチュア無線による航海のサポートシステムとしてのネットワークがあります。それはアマチュア無線のHF帯の電波を使用するネットワークの存在です。HF帯ゆえに太陽の活動周期によりその通信の確実性は必ずしも一定であるとはいえませんが、しかしながらこれらネットには太平洋岸を中心としてヨット(S/V Sailing vessel)の航海に興味を持つ国内アマチュア無線家のほか、海上の外航船の乗員や航空関係の方々など航法にともなう気象や通信の専門家、そして太平洋の島々に住む人々、港やマリーナまたマリンエンジニアの方々など多くの海上や陸上ハムと、クルージングやレースをするヨットやボートマンハムたち(海上移動局=メリタイムモービル局=MM局)の間で現在地や気象、健康等の航海情況を毎日定時に交信し確認しあっています。 これらのネットワークを支えているコントローラーやサポートするハムの方々は、アマチュア無線ゆえの無償の行為であることに間違いありませんが、先人から引き継がれたこの何十年にもわたる毎日のネット維持継続には関係者の多くの努力がなされております。もちろん電波法に基づく免許や運用法を遵守したものですが、最近、成熟化社会を迎えた日本において、国内外へ長距離クルージングに出かけられるセーラーが多くなったことや、無線機やアンテナシステムの技術の向上と共に機器自体も小型化し安価になり、以前より艇体へのセッティングが容易になったことなどの他、比較的身近にアマチュア無線の海上移動局を開局できることもあり、最近、機器を搭載しネットにチェックインするセーラーが増えています。 日本から運用しているMaritime mobile support network を紹介します。
1. シーガルネット 周波数 21.382MHZ USB スタート時間毎日 2. オケラネット 周波数 21.437MHZ USB スタート時間毎日 MMネットの運用方法について。 各ネットには交信(QSO)を整理するキー局のネットコントローラー(NC)がいます。コントローラーの指示で進行されています。各ネットの運用方法は各NCの素晴らしい個性により各々雰囲気が違いますが、おおよそ次ぎの通りです。 *
約30〜40分前後運用されています。最初海上局からコールしてゆきチェックインが終了後、陸上局に行くのが通常です。多くの局がおりますので周波数は必ずゼロイン(キー局に完全に合わせる)させて下さい。また陸上局であっても緊急や急ぎの局は早期にチェックインを受け付けます。 *
特に初めてのチェックインの場合はコールサインとオペレーターネームまたボートネームは基本ですので明確に告げて下さい。相手が了解できないような時はリピート(繰り返し)をし、フォネティックコード(朝日のアや、Aアルファー等)を使って確認し合います。 *
NCがスキップオーバー(電波伝搬が不可能な場所)などでチェックインする全ての局を確認できない時は、国内の数局のアシスタントNCにより交信を確認します。QSP(中継)によるリレー交信となります。時にはアメリカ、ハワイやオーストラリアなどの海外局や洋上の本船等のMM局、またはその日チェックインしている余裕あるヨットのMM局にもアシストをお願いすることもあります。 *
通常、伝播状態がNCより見てよい時はビームアンテナを回転させながら、おおよそ、九州、四国、関西、関東、東北、北海道のエリアの順で陸上局(ショアサポート局)のチェックインを受付けてゆきますが、MM局はいつでもチェックイン可能です。もしNCが聞こえなくても、特に強く入感している局に声(ブレーク)をかけて自分のレポートを中継してNCに送って貰うことも可能です。また、ほとんどの局が聞こえないような場合でもMM局から一方的にレポートを流してください。数局が受信できている時もあります。 *
交信の基本内容はシグナルレポートを交換し、相手の受信状態を把握し、話しをすることが出来る状態か、また何回も繰り返す方が良いか、早めに終わるのか等を判断します。特にMM局は最初に世界的に船と通信の世界でも共通認識となっている下記の各項目(番号は送出順位)を順次送ります。 ( JAのMMネットでは天気の表現に下記の表記を使っています。) *
海外にクルーズするMM局は、特定のサポート局(航行を応援する懇意にしている国内のHAM)がフォローしていることが多くあり、その艇と個々のスケジュールタイムを組んでおられるようですが、むろんサポート局は各ネットにも気軽にチェックインする事はできます。ネット側も事前に連絡を受け優先的に交信をしてもらっています。一局でフォローするより多数局のネットで対応することの方が効果的なのはHAMであれば誰でも理解しています。また、NCはその艇の情報をなるべく関連するサポート局に集まるように配慮しています。 *
万一、MM局に急なトラブル等が発生したらサポート局やリレーできる局とNCを中心に交信し、その他、全局はスタンバイ(待機)するのが通常です。 *
ネットには複数のMM局も次の交信のため待機していますので長話を避けるため、途中で特定の局と長く、もしくは至急交信したい場合はNCを通じて声を掛け、ネット周波数は避けて5〜10KC前後離れた指定周波数を指示しそこにQSY(移動)して相手と交信しています。 *
ネットが終了する頃、“各局間の横の連絡をどうぞ”とNCからアナウスもされますので簡単な連絡があればここで話します。これから航海予定の艇や海外局のエントリーなどのインフォメーションもここで連絡されます。最後にNCがファイナルコールを行ないネットはクローズされます。もちろんクローズ後の交信はその周波数上でも各局自由です。 *
またMMでチェックインしていた局で航海が一区切りつき、入港後、休息のため暫く艇を離れるような時、もしくは航海が終了した時は暫く無線運用を停止(QRT)する旨をネットに告げています。 *
HF帯ですので、いつも使用周波数の電波伝播の状態(コンディション)が一定で完璧とはいえませんので、情況が悪い時にはネットは早めに終わる場合もあります。 {上記の運用内容をコピーされて艇内に置かれることをお薦めします。} これらのようにネット運用はそれほど複雑なものではありませんので是非トライしてみては如何でしょうか。できれば長距離航海に出かける前に当事者のMM局か、もしくは仲間のサポート局からNCかWEBマスターあてに事前に航海のインフォメーションを伝えていただければ幸いです。特に実際の交信をしてみて、その艇の無線機やアンテナの状態を事前に把握することは大事なことです。また、季節や時間差でコンディションの良否もありますので、前記のモーニングNETの“シーガル”アフターヌーンNETの“オケラ”の二つのネットのいずれにもチェックインすることは全く問題ありません。そうしているMM局も多く、これらネット間においても相互に各艇の動向の交換がなされています。 ご存知のように、現在2008年は、11年周期で変化する太陽活動のちょうどボトムです。それゆえ、今この21MHZのHF(短波帯)のハイバンドはとてもコンディションが悪い時ですが、来年の春から徐々に立ち上がるでしょう。その数年後にはサンスポットの増加と共に世界的にプロパゲーション(電波伝播)が開けると思います。 また技術的なことですが、このところ自艇にセットする最適な無線機(ラジオリグ)やアンテナの機種についての問い合わせを戴きます。無線機については12Vバッテリーで動作する堅牢、コンパクト、そしてリーズナブルでポピュラーな機種の方が、取り扱いのアドヴァイスをネットで受ける時にも、利用者が多くおり何かと便利です。またアンテナについては艇体における高周波のRFグラウンドのセット方法や、FAX受信との兼用法、また二つのネットで運用するためのセッティング中心周波数。そしてマストやステー、シュラウド、トッピング等の金属干渉からの回避法、そのほか送信時における他の航海機器へ電波の回り込みによる誤動作などへの対処法や結露対策などさまざまです。いずれにしてもANTやRIGの設置などの前にメール等で連絡いただければ過去の実績を参考にお話が可能でしょう。 特に最近は電子航海計器・オートパイロット・パソコン・冷蔵庫・電子レンジなど電気製品を使用する事が多くなった航海において、これらの機器からのノイズ、さらにその根源のDC・ACインバーター使用に伴う無線機が受けるノイズ対策や電圧ドロップ対策、そして又、最近多発している結露によるトラブル等に対しては、大小2系統の分割したインバータの設置、さらには最悪のケースを想定して、サテライトホーンやパソコンだけは12Vが使える変換ツールの準備や、もしくは前もって12Vでの直接仕様にされることも必要なことです。また最近では長期航海に出る艇は平均的に500アンペア前後と大幅に電源容量(バッテリー個数)が増えたのに伴い、関連するチャージシステムとしてのエンジンオルタネータ以外、無風時でも日照さえあればチャージ可能なソーラパネル、風さえあれば夜や曇天、霧でもチャージする小型のウインドエレクトリックコージェネレーターなど、長期のセーリングで使用する機器についても事前に無線機を動作させながら、できればハーバーなどの港外(ノイズの無い場所)で受信や送信状態を確認しておく方が以後ベストな無線運用には役立つでしょう。 最近は海外への長期航海をしながらインターネットのブログやホームページを開設し、その写真と伴に航海日誌を開示しているクルージングセーラーも多くおられます。それを読みながら、同時にその体験を共有できることは素晴らしい時代となりました。しかしながら、海外を目指す太平洋上のセーラーたちがネットコントローラー(NC)を中心に陸上局や国内クルーズのセーラー等も含め、海外局や外航の本船など、多くの人と同時刻に電波で互いを確認しあうことは、正にこれらのネットワークがメリタイムモービルサポートネット(海上移動局の支援通信網)と呼ばれる由縁でもあると思えます。 そして互いにHAMであることゆえの無線運用は、大海を航海し単調で孤独になりがちなセーラーと航海情況などのやりとりを通じ、それを理解し支援する人達の間で生まれる共通の連帯感とともに、人を励ましたり思い案じたりする心(ホスピタリティー)が、多くの新たな人間交流を生み出して、電波と云う媒体によるダイナミックな世界の中で、日頃の携帯電話や衛星電話。また単なる位置発信機とはちがい、他艇の動向などいつも把握しながら、フレンドリーでオープンな無線交信による幅広いコミュニケーションの素晴らしさを、これらのネットから知って戴けると思います。
Best 73’s
de JH2UZB/7/mobile Sumitaka.Honma From Akita 参考 * オケラネットについて * パシフィクシーファーラーズネットについて * 世界のMMネットワークについて(クルーザーログ) * 世界のヨットの情報ページについて(パンゴリン) * 世界の海のボートポジションについて(ヨートレップ) * 世界の海の船舶ポジションについて(セイルクス)www.sailwx.info/shiptrack/shiplocations.phtml * 世界のアマチュア無線局約125万局のいわば電話帳について * JH2UZB/Mobile/Akitaについて
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