2007/10/29 ぽれーる通信 No.22 フィジーのヴィチレブ島より

ブラ!(こんにちは)、皆さん

 ぽれーるは、10月27日(土)の正午にフィジーのヴィチレブ(Viti Levu)島(フィジー本島)の北西にあるデナラウ(Denarau)港のマリーナ(南緯17度46分、東経177度23分)に着いています。フィジーの日中は相変わらず暑く晴れ渡っています。日本では紅葉の美しい時期ではありませんか。

フィジー早朝のヴィチレブ島北岸

 ヨットによるクルージングでは、全てが順調というわけではありません。ツアモト諸島・ガンギロア環礁のパスでは、6ktの速い海流と逆巻く波の中でエンジンが不調になり、あわや座礁かと冷や汗をかきました。また、なんとか乗り切った環礁の中のアンカリング中に風が40kt近くになり、走錨してヨットが流され、暗礁へと近づく中、なかなかアンカーが上がらず、約1時間半の格闘の末、最後にアンカチェーンが切れ、ぎりぎりのところで環礁を脱出することができました。そういえば、どこの環礁でもパスを乗り切れずに座礁し、朽ち果てたヨットが何隻か海岸に打ち上げられている姿を見ます。

フィジー・サブサブの夕日

 フィジーは今まで訪れた南太平洋の他の島々と少し違ってインド系の人を多く見かけます。フィジー全体では人口の約半数がインド人です。特に、最初に訪れたサブサブ(Savusavu)(南緯16度46分、東経179度20分)の所在するフィジー第2の大きな島ヴァヌアレブ(Vanua Leve)島は、イギリスの植民地時代にサトウキビ工場の労働力として多くのインド人が入植したこともあり、マリーナやスーパーマーケット、お土産店、雑貨屋のほとんどはインド系の人が経営しているようです。たまに、中国系の商店があります。地元のフィジーの人たちは町の共同マーケットの細かく区画された屋台の上で多くの人が同じような果物や野菜、魚を並べて売っています。サブサブ停泊中にお世話になったコプラ・シェド(Copra Shed)・マリーナもインド人のゴーペンドラさんが経営しており、マリーナの受付でマネージャーのドーリーも、作業員のピオ、シェーファもインド人です。

コプラ・シェド・マリーナ受付のドーリーと

 フィジーの経済はサトウキビから精製される砂糖の輸出と観光の2大産業が支えているようですが、一般の生活面ではインド系の人たちとホテル等の海外資本が握っているようです。つい最近もフィジーではクーデターが発生しており、これもやはりフィジー系とインド系等の経済的な対立が根底にあるようです。また、フィジーの首都スバ(Suva)は治安があまりよくないようで、大きな町や基幹産業であるサトウキビ工場等がある港や周辺の海は生活排水や工場排水でかなり汚れています。フィジーでは観光地を除き町の中や周辺は少しゴミゴミしており、人々も少し厳しい顔つきのように見えますが、ちょっと町を離れれば美しい自然と、にこやかで親切な人々に出会うことができます。


マコンガイ島カメリ小学校の先生と子供たち

 今回、ぽれーるはそのような素晴らしい人々との出会いと美しい自然を求め、フィジーの島々の一部ですがアイランド・クルーズをして来ました。サブサブを10月17日に出港し、マコンガイ(Makongai)島(南緯17度26分、東経178度57分)、ナインガイ(Naingani)島(南緯17度34分、東経178度41分)、ヴィチレブ島の東岸及び北岸を航行し、ママヌザ(Mamanuca)諸島のマロロ・ライライ(Malolo Lailai)島(南緯17度46分、東経177度11分)、少し引き返してデナラウ港までやって来ました。途中のマコンガイ島ではカメリ(Kameli)小学校を訪問し、バレンチノ先生とその奥さんで先生のソフィに学校を案内してもらい、教材の不足や傷んだ教室の現状を聞きました。また、授業終了後にもかかわらず、先生が子供たちを集めて、みんなでフィジーの歌を歌ってくれました。お礼に先生が中央政府に提出するレポートのための現状写真を撮ってプリントアウトし差し上げました。 ナインガイ島でもすばらしい笑顔の子供たちに出会うことができました。クルーズの途中ですれ違う地元の魚を取る小舟の人たちや海岸からぽれーるを見た人たちは、その姿が小さくなるまで大きく手を振ってくれていました。また、ぽれーるの日の丸を見て「コンニチワ!ガンバッテー!」と若い地元の漁師夫婦が日本語で挨拶してくれたこともありました。

 フィジーの地方の小さな島にヨットで訪れる時は、「Kava(カヴァ)」の儀式が重要です。カヴァの儀式は訪れた島に敬意をはらうため島の酋長にカヴァを献上し、カヴァという乾燥させた胡椒科のヤンゴーナという木の根を水に浸し、絞った汁をお互いに飲み交わすものです。カヴァは茶色く濁って苦みが強く舌がしびれるような飲み物で私にとってはあまり美味しいものとはいえませんでしたが、古くから伝わる神聖な儀式でフィジーの人と打ち解けるための挨拶のようなものです。

 フィジー周辺の海は、珊瑚礁や岩による浅瀬が多く、GPSによる正確なポイント航法が必要です。特に、ヴィチレブ島東岸から北岸に沿った航行では、海底が泥のせいか海水の透明度が低く浅瀬がよく見えません。ところどころに竹竿のような棒が浅瀬を示していますがタヒチクルーズの時に見たようなしっかりした標識は一つもありません。海岸に沿って平均約2マイルの沖を航行しているにもかかわらず、約0.5〜1マイル毎に方向転換を必要とする場所が多く、迷路のような細い水路を何時間も航行しました。

 一度、コースから約30mずれた時にぽれーるのキールが珊瑚礁か岩に接触したような軽いショックを感じました。また、ナインガイ島での出港時、アンカーチェーンが約10mの海底で大きな岩と珊瑚の根元に巻き付いてなかなかアンカーが揚げられず、海に潜って(私の素潜りでは5,6mが限度)チェーンの巻き付き状態を確認したり、チェーンが岩から外れるようにぽれーるを操船したりを何回も繰り返し、約1時間半の格闘の末、やっとアンカーを揚げることができました。南太平洋でのアンカリングは、風向きや潮の流れも大切ですが、あまり透明度の高い水深10m以下のコーラルグリーンの海面では海底がさらさらの砂である場合が多くアンカーの効きがよくありません。また、風向が変化しやすい湾内では生育している珊瑚等にチェーンやアンカーを絡めるおそれがあります。もちろん、アンカリングする前によく周辺の海面を観察してから場所を決めますが、既に他のヨット等がアンカリングしている場合はポイントが限られます。また、大きくて静かな湾の奥深くでは海底が泥(ソフトマッド)の場合が多くアンカーが効きません。一般的に水深が15〜20mの海の色が少し濃いブルーの海面で太陽光が海底に届きにくく珊瑚が育ちにくいところをねらってアンカリングしているヨット等が多いように思われます。

マコンガイ島で再会したピーターとジンジャー
ナナヌで出会った陽気なイタリアのヨッティーマッシモと

 ヨット仲間との出会いでは、シアトルから来ているヨット「Marcy」とボラボラ島以来でマコンガイ島で再会し、ピーターと奥さんのジンジャーに歓待され、ステーキをご馳走になりました。ちなみに、ステーキを焼いてくれたジンジャーはベジタリアンでサラダと果物を食べていました。また、ヴィチレブ島北岸のナナヌ(Nananu)ではイタリアのベニスから来たヨット「Cricchi(クリッキー)」の陽気なマッシモに出会い、お互いシングルハンド同士ということでスパゲッティとワインで乾杯し、彼はイタリア語中心に私は日本語に片言の英語ということでも夜遅くまで盛り上がり、ニュージランドでの再会を期して別れました。 デナラウ港でもお馴染みのフランスの「Jade」、オランダの「Noorderzon」、カナダの「WynterSea」が迎えてくれ、新たにヨット仲間も増えました。

 マロロ・ライライ島は観光地でコテージ中心のリゾートホテル群とレストラン、お土産ショップ、土の滑走路の小さな飛行場とマリーナがあります。 フィジー・マロロ・ライライ島 フィジーに限らず南太平洋のほとんどの観光地は欧米や先進国の観光客が多く訪れており、一泊数万円以上もする高級リゾートホテルが軒を並べ周辺や海岸は綺麗に整備されています。観光客はそれぞれ日陰で昼寝をしたり、読書、水遊び、カヌー、シュノーケリング、ダイビング等、また、夜はホテルが主催するダンスショウや音楽を楽しんでいました。 それとは対照的に地元のフィジーの人々はおだやかで質素な生活をしており、彼等の家はホテルの綺麗な作りと比べると簡素なたたずまいです。そして、彼等の家はライライ島ではなく観光客の目にとまりにくい隣のマロロ島にあります。

 ライライ島のホテルやその他のサービス業等で働く地元の人たちはそれぞれの職場の制服を着て、朝晩乗合の小舟で通って来ていました。ぽれーるや他のクルージング・ヨットは眺めのいいロケーションにアンカリングして、時たま、ディンギーで上陸しては冷たいビール、洒落たレストランで食事、ホテルのプールで水泳と、ホテルに宿泊している観光客と比べるとかなり経済的にリッチなリゾート気分を味わうことができました。

 デナラウ港はフィジー第3の町で国際空港のある観光地ナンディ(Nadi)に隣接しており、ママヌザ諸島、ヤサワ諸島等リゾートアイランドへの船の発着地です。各種のオプショナルツアーのための観光船がひっきりなしに出入りしており、待合所を兼ねた真新しいショッピングセンターには多く観光客が訪れています。ヨッティーたちが集うマリーナのBARでは、いつフィジーを離れてニュージランドに向け出港するのか、途中の天候、風、海流の状況等はどうなのかが話題の中心になっています。

 そろそろ南太平洋でのクルージングシーズンの終わりが近づいています。ぽれーるはデナラウ港で約一週間の休息とぽれーるの整備を行います。その後、フィジーのエントリー・オブ・ポート(入出国可能港)の一つであるラウトカ(Lautoka)(南緯17度36分、東経177度27分)に行って出国手続きを行い、南南西に約1100マイル(約2000km)の距離にあるニュージランド北島のオプア(Opua)(南緯35度19分、東経174度7分)を目指します。11月中旬から下旬にはニュージランドに着く予定で、これが今年最後のロングクルージングになります。

ぽれーる船長  関